コラム|月刊近代中小企業に掲載「赤字企業の売却」

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代表の山本が執筆した「赤字企業の売却」が近代中小企業(2018年1月号)に掲載されました。

M&Aは、もはや大企業だけの経営手法ではありません。その対象は、地方を含めた中小企業にも有効的な手法として浸透しつつあります。ところが、会社売却を検討する際に「赤字」であると、顧問税理士などの専門家は「売却は難しい」と、判断することもあります。赤字企業というだけで、本当に買い手はいないのでしょうか。諦めてはいけません。本稿で赤字企業の事業譲渡の可能性を探ります。

なお「近代中小企業」http://www.datadeta.co.jp/は中小企業経営者および経営幹部を読者とした会員向け月刊誌です。


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事業承継の極意!自社の強みを見つめ直し「赤字企業」を売却する
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M&Aがもはや大企業間だけの経営手法ではなくなり、その対象は地方を含めた中小企業にも有効的な手法として浸透しつつあります。しかし、会社売却を検討するとき「赤字」であると、顧問税理士などの専門家からは「売却は難しい」と返答があるのではないでしょうか。赤字企業というだけで、本当に買い手はいないのでしょうか。諦めてはいけません、本稿では赤字企業における売却可能性を紹介します。 

 

「赤字」にも種類がある 自らの「赤字タイプ」を知る

一言に「赤字」といっても様々なタイプがあります。税務上の赤字、営業キャッシュフローは黒字、低迷する部門が足を引っ張っている、経営資源はあるのに現オーナーが活かせていない など。赤字企業を一律に評価してはいけません。

(図表 赤字企業のチェックシート) 

 

税務上の赤字と、本質的な赤字は違う

中小企業の大半は、決算書の作成を顧問税理士に委託していることでしょう。一方、上場企業などは投資家への説明責任を果たすために、税務上の決算書だけでなく、監査法人の会計監査、内部統制監査を経た企業会計の決算書を有しており、M&Aの検討がなされようとするときにまず参照される決算書は、後者の企業会計の決算書を用います。

中小企業で「赤字」と称した決算書と、大企業のそれと異なる特性がここにあります。中小企業が赤字と表現する財務諸表は、顧問税理士が作成した税務上の決算書です。

それでは、税務上の決算書の作成動機とその結果には具体的にどのような特性を含んでいるのでしょうか。

税務上の課税所得を計算するうえで作成されますので、いわゆる損金計上を如何に多くするかに視点がおかれています。

税金を納めるぐらいなら、損金計上できる費用を発生させようと、会食する、旅行に行く、生命保険に加入する などといった本業外の活動を増幅させ、損金計上できるなら企業オーナーの「私費」も費用に含めさせたり、最大限の減価償却を適用させたりすることもあるでしょう。これらは、もちろん非合法ではありませんが、これにより「赤字」としているのであれば、これはあくまでも税務上の赤字であり、本質的な企業収益性として「黒字」の可能性もあります。さらに、税理士によっては、ぎりぎり「赤字」ですと税務署から損金否認を受けると即座に黒字&課税となるので、保守的に大幅な「赤字」を推奨し実行する場合もあるでしょう。

赤字企業が事業承継に向けて決算書を提示する際は、税務上の決算書原本とともに、本質的な損益がわかる、組み換え決算書も用意しましょう。これは、売却側の企業内情を予め知りうる経営者本人しかできないことです。

 

全体的に赤字でも、部分的な黒字もある

また、企業全体で赤字であっても、一企業が複数の事業を営んでいるのであれば、その中に黒字部門がある場合もあります。国を代表する東芝においても毀損した財政の立て直しに向けて、グループでの収益源であった半導体事業を不本意ながらも分社化し売却を狙う運びです。

例え製造しているのは一つの商品であっても複数の販路があり、販路によって赤字、黒字の場合もあります。2年前に事業譲渡をサポートした静岡県の食品企業は、主に惣菜の製造と販売を行っており赤字が3年ほど続いていました。製造は1ヶ所で行い(いわゆるセントラルキッチン)ながらも、販路は2種類あり、個人向けに店舗による販売と、大手スーパー向けの卸売り販売です。企業全体では3億円の売上がありましたが、その販路別の採算性は検証できていませんでした。企業オーナーとともに販路別の採算性を検証したところ、個人向けの店舗販売では店舗の賃借料負担や、売れ残り商品の破棄による原価アップ、販売スタッフの人件費や採用コスト負担などがあり大幅な赤字。一方、大手スーパー向けの卸売り販売は、受注生産のため廃棄ロスはなし、販売スタッフは不要、納品までの物流インフラは発展、「中食」ブームもありスーパー側もデリ(消費者が店舗で買って家で食べるための惣菜)の販売面積拡大もあり、黒字計上且つ今後も収益力が期待できることが判明しました。この企業は赤字でありますが、実は黒字で且つ将来性もある事業を持っていたのです。そして、製造及び卸売販売業として事業譲渡に至りました。

中小企業の場合、部門別会計(事業ごとの売上だけでなく、費用や資産、負債まで分配することにより作成される、部門ごとの決算書)を導入していないのが実情ですが、ぜひこの機会に部門別会計を導入し、今一度自身の経営分析を行いましょう。

このように、一言に「赤字」といっても、企業毎に「赤字」の内容は異なり、その内容により事業承継の可能性を生み出すことになるのです。 

(図表 赤字企業の譲渡検討フロー) 

 

赤字企業における黒字部門の事業譲渡

「会社の売買」の代表的な方法としては、もちろん株式の売買です。前述のように黒字部門のある赤字企業はどうするのでしょうか。

そこで用いられるのは、対象の「事業部門」のみを会社と切り離して「事業譲渡」として売買する方法です。

例え部門別の経営管理ができていなくても、事業承継を契機に、具体的な譲渡対象を売り手と買い手で合意すれば良いのです。人員、顧客網、設備、売掛金などの資産とともに、対象事業に紐づく借入、買掛金、保証などの負債を特定して、売り手はそれを譲り渡し、買い手はその対価を会社へ支払うことが一般的です。

これは赤字企業だけでなく、時に黒字企業における特定の部門のみの譲渡にも用いられる手法です。これにより、買い手にとっては、譲り受けた法人の簿外債務を切り離すことも可能になります。納品済の商品の長期的な保証債務や、顧客が承継前の企業に前払いしていて承継した企業が納品だけを行う債務などから解放されます。その一方で、対象とする経営資源の所有者が変更されるわけですので、従業員や取引先からの同意が必要になります。これらは煩雑に感じますが、例え株式譲渡であっても道義的には同様の説明責任が生じるので、実務上は大きな差はないでしょう。株式譲渡と事業譲渡のそれぞれのメリット・デメリットは左図の通りです。

(図表 株式譲渡と事業譲渡とメリット・デメリット)

 

黒字部門の譲渡は、このような「事業譲渡」だけでなく、売り手による会社分割を経て対象会社のみを売買する方法や、一旦は買い手が赤字企業を丸ごと買い上げ、買い手による事業の選択と集中を進める方法など、多様な方法から選択することが可能です。

前述の静岡県の食品企業の場合、黒字の製造及び卸売販売業のみを事業譲渡し、結果得られた資金の一部を小売り部門の撤退に充当されました。もし、卸売販売部門だけでも譲渡しなければ、小売り部門の撤退費用を捻出することが困難だったことでしょう。

 

非財務的な経営資源を見つめ直す

そして、黒字部門すらない赤字企業はどうしたら良いでしょう。経営者は企業価値を最大限に高める使命があります。そのためにはまず自社の経営資源を客観的に見出し、事業承継を検討するには、その経営資源を一番高く評価してくれる企業を探索するのです。

西日本で管理戸数約1,500戸の賃貸管理会社は30年近くに渡り受託戸数、売上高を伸ばしていたものの、粗利益率は低下し、ここ数年は赤字と黒字を繰り返すうちに、高齢になった企業オーナーはいよいよ事業承継を考えました。しかし、これまで売上増を優先し、中途半端に店舗を拡大したため、単独の事業維持コストの低減には限界がありました。どんな物件にも30分程度で行けるように設置した店舗コスト、その人件費、地域に発信する最低限の広告費など。これを異業種、或いは同規模程度の同業者が承継しても採算性の向上は簡単ではなく、収益獲得目的のM&A案件としての想定譲渡価格はゼロ又はマイナスです。しかし、この業界は地域ごとの受託実績将来の受託につながり、また、運営上も受託戸数が多ければ多いほどコスト低減が図れ、いわゆるスケールメリットが出やすい業界です。このため、当時の管理戸数が6,000戸の中堅企業が、対象会社の「顧客基盤」という経営資源だけに着眼し買収しました。これにより、受託戸数は約3割増となり、その地域のシェアを高めることになったのです。

このような事例は顧客基盤に着眼する水平型統合に留まりません。建設会社Aは、発注先で木材を中心とした建材会社Bを子会社化しました。これにより、建設会社Aのグループ全体の事業活動としては、いわゆる垂直統合を果たし、原料を建材会社と同水準で仕入れ事業採算性の向上を実現しました。この場合も建材会社Bを買収目的は「仕入コストの低減、仕入ルートの安定化」であって、既に取引があった建設会社Aならでは事業承継です。

自分の会社の経営資源が、一番高く評価するのは誰か、或いは買い手候補が何を目的に買収を検討しているのかを鋭く考察することが、経営者が企業価値を最大限に高めることとなるのです。赤字決算というのは財務的、特に中小企業においては税務的な視点に過ぎませんし、ましてや財政状態(貸借対照表やキャッシュフロー)も勘案されていません。企業価値は、事業ノウハウ、歴史や知名度、有能な人材など、非財務的な視点からも評価されるのです。

 

このように、赤字企業を売却する方法はいくつかありますが、至極当然ながら黒字企業より売却先は限定されます。また、本質的な赤字事業で更に将来的価値のない事業は延命しないほうが良いでしょう。赤字が拡大する前の早目の活動が求められます。